3x3.EXE PREMIER JAPANには今季、男女あわせて10チームが新規参入します。本企画は新規参入チームのオーナーに参入の背景、クラブが目指すものなどを語ってもらい、新たに3x3.EXE PREMIER JAPANに加わる仲間を紹介するシリーズ連載です。
第1回は、北海道岩見沢市をホームとするHOKKAIDO IWAMIZAWA FU.EXE。3名が共同代表となり、役割も明確に分担しているが、目指す夢はひとつ。彼らが描く未来図を、ここに記します。

未だだれも見ぬ「ワクワクする未来のために」
HOKKAIDO IWAMIZAWA FU.EXEの挑戦

HOKKAIDO IWAMIZAWA FU.EXEは松重宏和氏、辻本智也氏、田尻洋輔氏の3名が共同代表を務める合同会社FU(エフユー)を母体に、今季より3x3.EXE PREMIERに参戦する。3名の代表の役割は明確に分かれていて、広告に携わる仕事をしている松重氏がクリエイティヴとビジネスの面を、総合型地域スポーツクラブの代表理事である辻本氏が育成を、選手とGMを兼ねる田尻氏がチーム強化を担当する。3人の出会いと合同会社設立の経緯、3x3を選んだ理由などを、松重氏が話してくれた。

上段:左から辻本 智也氏、松重 宏和氏 下段:田尻 洋輔氏

松重氏 「僕はもともと広告制作の会社に勤めていて、2019年に独立したんです。しばらくして東京ともうひとつ、地元の北海道に拠点を持とうと考えていました。そのころはいろんな人に会おうと動いていて、知人の紹介で辻本と出会ったんです。僕はスポーツが好きで、なにかしらスポーツに関わる事業をやっていきたいと考えていました。辻本は、これはあとで本人から解説してもらいますが、球技を通じて様々な能力を上げるバルシューレというものを子供たちに教えています。

出会ってからほぼ毎週のようにオンラインで定例会議みたいなものをして、ともに既存のスポーツクラブやスポーツビジネスの在り方に、疑問のようなものを持っていることがわかりました。それで、新しい形のスポーツクラブを作りたいというところに辿り着いたんです。僕らが考えているものを形にするには、トップチームに値するようなチームが必要になる。ゆくゆくは、そのプロスポーツクラブチームを作りたいと思っていたところで、僕らの考えが一致したんです」

プロチームを立ち上げるならば、どの競技がいいのか。複数案を検討して様々な条件を勘案すると、必然的に3x3に行き着いた。

松重氏 「岩見沢は豪雪地帯なので、外のスポーツとは相性が良くない。なのでアリーナスポーツがいいよねというところが、まずはスタートでした。そのなかでもバルシューレとの相性や、辻本が岩見沢の北海道教育大でいっしょに研究をしている奥田先生という方がいます。その先生が研究の一環で、アルバルク東京やレバンガ北海道のアカデミークラスの子たちに練習プログラムを提供することをやっていたり、そういった繋がりもあってスタートの段階では、バスケットがもっとも勝算があるんじゃないかとなりました。

最初は5人制も検討しましたが、今のBリーグは参入ハードルがかなり高いんです。それに、リーグ内のルールの縛りも強い。3x3.EXE PREMIERはバジェットも含めて参入への障壁が低いことも魅力でしたし、リーグが推奨するセカンドキャリアやデュアルキャリアも、僕らとしても推進していきたいところ。なおかつ、活動の自由度も広い。いろんな意味で、すごく相性が良さそうだなと感じたんです」

3x3でプロチームを立ち上げることが具現化したころ、松重氏と辻本氏は田尻氏と出会った。

松重氏 「僕も辻本もバスケ未経験者なので、経験者を入れる必要があるなとなりました。経験者がいればバスケ界の慣わしみたいなものに対応できるだろうし、選手集めとかもやりやすくなるだろう。そう考えて、奥田先生に田尻をご紹介いただいたんです」

田尻氏は5人制の地域リーグに参戦するCamelliaにも所属している、現役のプレーヤー。GMを兼務する身から、HOKKAIDO IWAMIZAWA FU.EXEの注目ポイントを語る。

田尻氏 「チームは『Fun and Run』というスローガンを掲げています。勝つことはもちろんですけど、我々のパフォーマンスを見てくださったり、応援してくださる方に3x3の楽しさを伝えるために、私たちはコートを走り回る。まずはそれをしっかりと体現しますので、そこを見ていただきたいです。

あとは私たちのプレーを見たことがきっかけで、地域の子供たちが3x3やバスケットボールをプレーしてくれれば、それが我々の喜びにも繋がる。それは逆の形での『Fun and Run』です。このスローガンを僕らが体現して地域と繋がり、地域の育成や環境をより良いものにしていければと考えています」


松重氏のコメントにあったバルシューレは、新しい形のスポーツクラブを目指す合同会社FUにとっても、また選手育成の観点からもHOKKAIDO IWAMIZAWA FU.EXEの大きなキーになるもののひとつ。そのバルシューレについて、辻本氏に解説をいただく。

辻本氏 「バルシューレはドイツ語で、英語にするとボールスクール。日本語に直訳するとボールの学校ですね。バルシューレのねらいは、幼少期に必要な運動能力を楽しみながら、かつ科学的根拠に定められた指導方法によって、球技を通じて子供たちにオールラウンドな能力を身につけるように導くというもの。大人に説明する際に理解してもらいやすいのは、みなさんが公園で遊んでいたような感覚が体育館で繰り広げられているんです。昔は運動能力を上げるためにと思って公園に行ったわけではなくて、友達と遊んだりすることによって、身体的なスキルも人間的なスキルも向上していました。

それが現代社会において、世の中が便利になってしまったり、不安定になることによって欠如し始めている。だけど身体的、人間的スキルを自然に上げることは、本当は人間に必要なものだということが科学的にわかってきました。必要以上に教え込まず、クリエイティヴィティを大事にして、子供たちを育てていく。ドイツ人のロウト先生という方が開発し、本にまとめてプログラム化したのがバルシューレです」


バルシューレを体験した子どもが成長し、やがてHOKKAIDO IWAMIZAWA FU.EXEでプレーする。これは彼ら3人の、夢のひとつだ。

松重氏 「僕らは今、2032年のブリスベンオリンピックに出る選手をうちのチームから輩出して、そして優勝することを中期的な目標に掲げています。今教えている子どもたちが成長して、もっとも輝くであろう時期として10年後に設定しているんです。しっかりとした科学的根拠のもとに研究されているプログラムがあり、子どもたちがすでにその教育を受けていて、育っていく。岩見沢は僕の出身地ではありますが、この環境が整っていることが、岩見沢を拠点にするいちばんの理由でもあります」

辻本氏 「僕は育成担当なので、子どもたちの成長を見てほしいですね。今までにないアイディアや体の動きができるような、大人が見てもすごいと思う子どもを多く輩出する予定なので。10年後のブリスベンオリンピックって、ちょっと先過ぎないって思われるかもしれません。でも年々面白い選手が輩出されていって、元を辿ったらみんな岩見沢出身だなということが毎年増えてくるんじゃないかなと思う。そんな子どもたちがやがてHOKKAIDO IWAMIZAWA FU.EXEでプレーするようになれば理想的ですし、たとえ地元出身でなくても、岩見沢にバスケットボールを学びに行きたいと思う子どもたちが増えることも理想なので、そこを目指したいですね」


チームの運営母体である合同会社FUの理念の中心にあるのは、「ワクワクする未来のために」。

松重氏 「子どもたちも自分たちも、バスケット界も含めて、みんながワクワクできる未来をこのFUというクラブを通じて作っていきたい。そのうえで重要なのは地域と連動して、新しいことをどんどん取り入れていくことだと思っています。

それをやるにはみんなが、新しい考え方を持つべきです。その新しい価値をどんどん取り入れて、みんなで新しい価値観を作り出していくことをやりたいんです。それは教育や育成の業界も同じですし、バスケットボールの業界もそうだと思うんです。とにかくいろんな価値観を融合させ、化学変化を起こすことで、まだ見ぬワクワクを生み出したい」

チーム名と社名にある、FUのアルファベット2文字。そこにはフューチャー(未来)、フュージョン(価値観の融合)、フューエル(みんなを燃えたぎらせる燃料)など、複数の意味が込められている。HOKKAIDO IWAMIZAWA FU.EXEはその活動を通じて、北の地に、どんな未来を拓くのか──。

(Text by カワサキマサシ)

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