2022年は6つのチームが大会を誘致し、ホームゲームを通じて競技の認知拡大をはじめ地域活性化や新たなコミュニティを創造しました。3x3.EXE PREMIERの特徴でもありますが、駅前や街中、商業施設などの省スペースにコート・ゴールを設置するだけで大会を開催できるため、大会誘致はさまざまな可能性を秘めていると言えるでしょう。

本企画は、2022年シーズンで大会誘致を実施したチームオーナーに、大会誘致にかけた想いや背景を含め、2022年シーズン全体を総括いただく内容です。

全7回でお送りするシリーズ最終回は、兵庫県西宮市を本拠地として構える『EPIC.EXE』。迷わず大会誘致に手を挙げたオーナーの岸田 大佑(きしだ だいすけ)氏に訪れたハプニングと、3x3にかける想いをここに綴ります。

地域と子どもたちを笑顔にしたい。
暗い世の中を、大会誘致で晴れやかに!

兵庫県西宮市をホームとするEPIC.EXEは、2019年に3x3.EXE PREMIERに初参戦。昨季はカンファレンス3位で、プレーオフ進出をあと一歩のところで逃した。そんなシーズンを振り返り、岸田大佑オーナーは言う。

岸田「チームは2021年から選手が4人変わって、若い選手が増えました。もうちょっと勝てるかなと思っていたのですが、新人の洗礼を受けたというか……。4人全員が3x3初経験だったので、勝ちきれなかった。大会が始まる前の動きとしては、いいスタートが切れると思っていたのですが、フタを開けたら勝ちきれないシーズンでしたね」

望む最高の成績は得られなかったが、クラブとして達成できたことも、もちろんある。

岸田「我々は自分たちを、ファミリーだと認識しているんです。スクールもやっていて、そこの子どもたちとも一体になり、クラブ全体で盛り上げていくことに取り組んでいます。コロナ禍以前の状態に近づきつつあった昨季は、選手やスクールのコーチ、そして子どもたちも含めて、みんなでファミリーとしての一体感がより出てきたのかなと感じています」

開催当日にも行われたキッズクリニックの様子

そんなEPIC.EXEは3x3.EXE PREMIER参戦初年度から、大会を誘致した。その後はコロナ禍によってシーズンそのものが中止になるなどしていたが、昨シーズンに3年ぶりの誘致が実現。2022年6月4・5日に、ららぽーと甲子園を舞台に大会が開催された。あの日を振り返り、目線をやや遠くに移しながら岸田オーナーは話す。

岸田「2019年が我々の初年度だったのですが、その年に誘致させていただいて、けっこうな盛り上がりを見せたんですよ。そのラウンドで優勝できて、2020年はもっと盛り上げていこうと思っていたところから、コロナ禍が始まってしまいました。ここ2~3年はあらゆることがずっと止まってしまい、本来思っていた姿でやれていなかったので、大会当日はなにもかもが新鮮に感じられましたね。ここを第一歩にして、またやっていかないといけないと思ってます」

2022年の誘致を決めたタイミングでは、コロナの状況はまだ不確かだった。そのなかでも手を挙げることに、迷いやためらいはなかったのか。

岸田「逆ですね。だからこそ、やらないといけない。暗い世の中になっていましたので地域を、子供たちを元気づけるためにも、我々が先頭に立ってやらないといけない。そんな思いを込めて、やろうと決めました。だから誘致に手を挙げることに、なんの迷いもありませんでしたね。大会当日は本当に、グッとくるものがありましたし、ようやくだなという思いもありました」

東日本と比較すると関西圏での3x3.EXE PREMIERの大会開催の機会は少なく、6月のららぽーと甲子園には、生で見られる3x3を待ちわびた多くのファンが訪れた。大会は2日間にわたって行われ、初日は初夏らしい晴れ間がのぞく好天。しかし2日目は朝から曇りがちで、大会の途中でこらえ切れず、空から雨粒が落ちてきた。雨自体は小雨だったが、濡れたコートで多くの選手たちが足を滑らせる。危険と判断した運営は急きょ、近隣の鳴尾浜体育館への移動を決断。異例の形で、大会を続行することになった。

岸田「道具や人も含め、移動は大変でしたね。これもファミリーにつながりますが、我々は幸せにもたくさんのことを支えてくれるスタッフがいて、恵まれた環境にあるんです。みんなで分担しながらチームワークで動いて、スムーズに移動できたと思います。私はいちばん最後に体育館に着いたのですが、館内に足を踏み入れた際に『ええっ!』と本当にびっくりしました」

岸田オーナーが目の当たりにした、驚きの光景とは……。

岸田「体育館に入ってみると、すごい数の人が集まっていたんです。雨が降ってしまって途中で会場を移動することになり、お客さんはもう来ないだろうなと思っていました。そうしたら、みなさん移動してきてくれて……。こんなに来てくれているんだと、うれしい驚きでしたね」

ららぽーと甲子園から鳴尾浜体育館へ移動しても、多くの人が応援に駆けつけた

ハプニングはあったが、そのハプニングが大会をよりいっそう、思い出深いものにしたのではないだろうか。今回のようなハプニングはともかく、大会を誘致、運営するとなれば、背負わねばならない負担が生まれるのも事実。岸田オーナーは、それでも誘致する価値はどこにあると考えているのか。

岸田「我々は西宮市がホームで、そのなかの甲子園の地域に『スポーツを核とした甲子園エリア活性化推進協議会』という団体があります。主体になっているのは西宮市、阪神電鉄、ららぽーとを運営する三井不動産、そして武庫川女子大学などで、我々がその協議会の目的に合致している点が、メリットのひとつ。それと3x3のプロの試合と並行して、地域の子どもたちにイベントというか、コンテンツを提供できることも価値と考えています。

ただ一方、今年はリーグとしての盛り上げや宣伝の部分が不足していたと感じてもいます。2023シーズンは、情報発信や運営フォローの部分でもっと引っ張っていっていただきたい思いはありますね」

岸田オーナーの想いは強い。リーグ担当者も同席した本取材では、岸田オーナーの言葉を真摯に受け止め、2023シーズンに向けて前向きな発言をする姿も見られた。これはPREMIER参戦のみならず、3x3という競技の普及に積極的に取り組んでいるEPIC.EXEだからこそ生まれた話でもあろう。

岸田「Bリーグのような5人制バスケとの大きな違いは、3x3は子どものころから触れていないんですよね。現状で3人制は、5人制より後ろにあるような感じの競技になってしまっています。そのなかで子どもたちが早い時期から3x3に触れて『5人制じゃなく、私は3x3でプロになるんだ』という思いを持って、競技ができる環境を作れるか。それができるかどうかで、その後の発展は変わってくると思うんです」

その思いから自主大会やイベントを開催する際も、必ず子どもやアンダー世代に舞台を提供している。

岸田「我々が大会やイベントを開催する際は、子どもが参加できることを組み入れています。それはすごく大事なことだと思っていますし、アンダーカテゴリーの大会であったり、3x3に触れる機会をもっと作っていかないといけないと思っています」

駅を出て目の前ということもあり、多くの人が足を止めた同大会 (©提供:EPIC)

そのようなポリシーのもと、最近のトピックとしては2022年11月に阪神電鉄・甲子園駅前で、高校生を対象にした3x3の大会を開催したことがあげられる。

岸田「あれは甲子園球場さんといっしょにやったことで、甲子園球場の周りをスポーツコンテンツで埋め尽くすようなイベントでした。そのなかで我々が甲子園球場の駅前広場にコートを敷いて、『3x3甲子園』と銘打って高校生を主体とした大会を実施させていただきました。甲子園球場はみなさんがご存知のとおり、高校野球の聖地です。3x3でもそういう場所になればという思いを込めて、高校生の大会を実施させていただいたんです。今年度も同じように甲子園の周りで年2回とか、兵庫県内各地を回りながら3x3の魅力と、3x3をとおして地域がいっしょになって楽しめる場所を作っていこうと考えています」

『スポーツを核とした甲子園エリア活性化推進協議会』と連携していることをはじめ、EPIC.EXEの活動は3x3を通じて、豊かな街と人作りが主題なのではないか。そう問うと岸田オーナーは、静かに首を縦に振った。EPIC.EXEの現在の取り組みは、言うなれば種まきのようなものかもしれない。しかしそれは遠くない将来に芽吹き、やがて大輪の花を咲かせることだろう。

3x3甲子園開催時の写真 (©提供:EPIC)

◤TEAM information◢
Team:EPIC.EXE
Since:2019
Hometown:兵庫県西宮市
SNS:
(Twitter)https://twitter.com/ExeEpic
(Instagram)https://www.instagram.com/epic.jp/
(公式サイト)https://hanshin-epic-3x3.jp/

◤大会誘致に関するお問合せはこちら◢
premier@exebasketball.com

(Text by カワサキ マサシ)