2022年は6つのチームが大会を誘致し、ホームゲームを通じて競技の認知拡大をはじめ地域活性化や新たなコミュニティを創造しました。3x3.EXE PREMIERの特徴でもありますが、駅前や街中、商業施設などの省スペースにコート・ゴールを設置するだけで大会を開催できるため、大会誘致はさまざまな可能性を秘めていると言えるでしょう。

全7回でお送りするシリーズ最終回は、これまで「大会誘致」をテーマに届けてきた本企画とは異なる番外編。『3x3 Town Award』を受賞したSANJO BEATERS.EXEのオーナー・柴山昌彦氏を中心としたチームの活動や、活動にかける想いや背景、そして2022年シーズン全体を総括いただきます。

新潟県三条市を本拠地として構えるSANJO BEATERS.EXEの特色は、「半農半バスケ」を合言葉としたバスケx農業をコンセプトにしたデュアルキャリアの形成。選手およびスタッフが、農業を通じて感じたこととは。柴山氏が描く未来とは。

農業とバスケの融合が、人間力を伸ばす。
やがて訪れる春を待ち、今は同じベクトルを向いて。

『3x3 Town Award』は、3x3という競技を通じて街を盛り上げたチームに対して贈られる賞である。経済効果や地域活性化等々、競技以外の側面で街にどんな影響を与えたか。その活動を主に評価するものであり、2022シーズンはSANJO BEATERS.EXEが受賞した。

彼らの活動を簡単に説明すると、総務省が打ち出す『地域おこし協力隊』という制度を活用し、「半農半バスケ」というコンセプトのもと、無農薬野菜をはじめ新米などを育てながら、3x3の競技をまい進するというもの。デュアルキャリアとして活動する選手が多いのもPREMIERの特徴のひとつではあるが、世間一般的に見ても農業とのデュアルキャリアは非常に珍しい。「なぜ農業か?」その質問に、オーナーの柴山氏は即答した。

柴山「農家の方は、作物を収穫し販売して代金をもらって生活しています。一見、当たり前に思うかもしれませんが、たとえば天災で収穫皆無になってしまった場合、収入がなくなってしまうわけですよ。「天候のせいで…」なんて言い訳にもならない。丹精込めて何カ月も育ててきた作物がダメになれば当然落ち込みますし、先の生活も不安になる。

でも農家の方は、翌日から何をするかって、被害にあった畑や田んぼに種をまいたり苗を植えたりするんです。何かのせいにせず、事実を受け入れて次の一歩を踏み出す。この強さを育めるのは、農業という仕事のもうひとつの大きな価値であり、それが人を創ると私は思っています」

「人づくりをしないと地域は生き残れないと思ってNPO法人を立ち上げた」という言葉は、設立当初から柴山氏がさまざまなメディアに対して発してきた言葉でもある。

柴山「そういう意味では、バスケや農業を通じて人づくりをしていると捉えてもらっても良いと思っています。バスケだけ、農業だけやっていればいいという話ではなく、両立することで自分自身が成長できる、その場所がこの三条下田(しただ)にはあると思います。

また、地域おこし協力隊の制度は基本3年間ですから、この期間中はもちろん4年目以降どうするのかを、選手と私たちで話し合いながら・考えながら成長できるようにしたいし、していってほしい。本来、1年目は種をまき、2年目は水をやり、3年目で花を咲かす、なんです。ここに来てくれる選手(原石)たちがどうすれば輝けるか。我々がもっと頑張らないといけません」

メンバーは新潟県三条市に移住をして活動していくため、選手たちの覚悟はもちろん柴山氏のリクルートにも当然熱が入る。「そうでないと無責任だから」と冷静に語る姿が印象的だ。移住してきた精鋭たちに、参考までに「農業を過去経験された方はいるか?」という質問をすると、全員が首を横に振った。初めての農業、そして異国の地に飛び込むことに、不安はなかったのだろうか。

木村選手「「身体を動かす仕事がしたい」と「デスクワークは苦手」の、2つを軸に就職活動をしていたときに、バスケ部の先輩からSANJO BEATERS.EXEを紹介してもらって、半農半バスケという理念に共感したことで移住を決めました。ただ、ここでの仕事は農業だけではなくて、デスクワークももちろんあるんですよね。恐らく昔の自分であれば、デスクワークをやらないまま生きていたと思います。苦手だったことに挑戦して克服できたことは、この環境でなければ難しかった。移住前、不安はもちろんありましたが、挑戦して良かったと思う瞬間は非常に多いんです」

柿下選手「自分もこっちに来て初めて農業には携わったんですが、田んぼの方、農家の方を中心に地域の方々が積極的に協力してくださいます。多くの方々とコミュニケーションを取り、人のあたたかさに触れることで、自分の人間性もバスケ力も上がっていってるなと感じています。とはいえ今はまだ、自分で何かするよりも「これお願い」と言われることが多いので、早く自分で考えて行動して、自分の伸びしろを増やしたいです」

「半農半バスケを体現したい」そんな言葉も選手からは伺えた。また、彼らの言葉を聞いて、柴山氏がすぐにコメントをする姿も取材中は見受けられた。このシーンでは「お願いされたことに対して期待以上のことをやり続ければ、どこに行っても通用するよ」という言葉が選手にかけられた。「頼まれることは試されること」。こうした言葉一つひとつが、種まきでもあり水やりでもあるのだろう。

柴山「今いる選手たちは、非常に前向きで一生懸命だから、期待をしています。すごく伸びる要素がある選手ばかりなんですよ。その点では楽しみだけれども、ここからは選手とスタッフが同じ気持ちで、同じベクトルを向いて活動をしていく必要があります。そのシンクロができてくると、チームはさらに伸びると思いますよ」

オアシス21で開催されたRound.2。決勝の相手・UTSUNOMIYA BREX.EXEに惜しくも敗退し準優勝となった

話を2022シーズンの3x3に移していこう。SANJO BEATERS.EXEは、NORTHERN ISLANDSカンファレンス4位で、残念ながらプレーオフ進出とはならなかった。『3x3 Town Award』を受賞するため、柴山氏一人で大森ベルポートへ足を運ぶことになったが「FINALの光景を選手に見せたかった」と悔しそうに語る。

柴山「やはり通常のラウンドとは別物でした。選手・スタッフは1日目は観戦できたのですが、最後までは見せてあげられなかったので。決勝の舞台に立つ選手・チームの意識レベルを間近にして「これが本当のPREMIERの戦いなんだ」と思いましたね。それに一体感もあった。選手もスタッフも、全員が同じベクトルを向いてやっていることが、誰の目にも明らかだったんです」

安恒選手「やはり同じベクトルを向くためには、みんなで顔を合わせて、しっかり話し合う機会を増やすことが大切だなと、今シーズン加入したばかりですが感じています。だからこそ来シーズンは”チーム力”という部分で良い結果を出せるように、競技も農業も頑張りたいです」

トレーナー・鈴森「SANJO BEATERS.EXEには、関東組のメンバーもいるんです。トレーナーとして、私生活から見ていくことが重要だとひしひしと感じていて。それを三条下田のメンバーだけではなく、すべての選手に浸透させていきたい。ベテラン選手から「練習を見て欲しい」というオーダーもあるので、来年は積極的に実施しチーム力を上げていきたい」

ボタンひとつで同じベクトルを向いて一体感が生まれることはない。その点「チームの団結のために心がけていることは?」と質問すると、柴山氏からユニークな回答が返ってきた。

柴山「良いものは良い、悪いものは悪いという判断をきちんとできること。たとえば目の前に3,000万円ポンっと出されて“何でも使っていいよ”と言われたら、私も喉から手が出るほどほしいけど、それを“ちょっと待ってください”って断るその気持ちがスポーツマンシップでありフェアネスだと私は思うんです」

選手・スタッフには、ビーターズウェイで最も大切にし、ソーシャルジャスティスにも通じるフェアネス精神を真っ先にあげた。

柴山「3x3で言えば、最後のノックアウトショットを決めた選手だけが褒められるのではなくて、チーム全員、スタッフも含めてお互いを称えあうことが大事」

オナー・イズ・イコール、チームファースト、最後まで諦めずにハードワークするなどビーターズウェイのキーワードが並ぶ。それはすべて人として何が大切かをチームに落とし込むことを意味している。

柴山「今、同じ考えを持つメンバーが揃い、少しずつですが形になってきているんですよ。だからこそ『3x3 Town Award』は本当にありがたい。自分たちの活動の証として、やってきたことが間違いではなかったと証明されたので、みんなに感謝しているんです」

”競技”という畑では、残念ながら2022年に花は咲かなかった。ただ、その過程は『3x3 Town Award』という大きな収穫となった。2023シーズンはもう、花が咲いてもいい頃合いだろう。たくさんの水と肥料をあげてきたのだから。

荒選手「仕事の行いや仕事以外の行いは、バスケットの大事なタイミングで絶対に出ると思うんです。それはスキルや判断力ではなくて、根詰めた部分だと思うので、自分自身も自負しながら、チームのみんなとコミュニケーションを積極的に取っていきたい。仕事面でもバスケ面でも、良いところを吸収できるように」

広報・篠宮「2022シーズンのRoun.3で青森県八戸市に行かせていただいて、FLAT HACHNOHEの会場の一体感とか雰囲気とか含めて、純粋に羨ましいと思ったんです。あの地域に密着したチーム作りは手本にしたいと思いましたし、私たちももっと新潟県や三条市をあげて応援していただけるチームになりたいと心から思いました。広報の役割として、メディアへの露出も増やして、もっとSANJO BEATERS.EXEを周知できればと思います」

柴山「やれるだけのことはやって、あとは結果がついてくる形にしないといけない。悔いを残してはいけないんです。終わってみて「あれやればよかった」ではなく、考えられることはすべてやりきらないと。余力を残して仕事しても次に繋がらないんです。背伸びしたら届くかどうかをやっていくと成長する。みんなくらいの若い時に一生懸命やることが、きっと私くらいの年になってから泣くか笑うかに繋がるから。次の山を越えればまた次の山が出てくるし、そういうチャレンジをずっと続けて行った方が良い気がする。だから今、私は泣いていますけれど(笑)」

最後、余談にはなるが、2022シーズンに柴山氏は山を買ったそう。「ただね、山の場所がよくわからなくて、最初は大変でしたよ」と楽しそうに語ってくれた。中山間地域にある離村した農家の山・田んぼ・畑を全て購入されたそうで、山は会員制のプライベートキャンプサイトに、社員研修などのワークショップとしても活用し、ふもとはドッグランにする予定。間違いなくPREMIER初の山を保有するチームである。ただ、彼らが登るのは購入した山だけではなく、PREMIERという3x3の山、そして人づくりという大きな山であろう。登頂を待つ多くの人の気持ちを背負いながら、また一歩、彼らは同じ方向を向いて動き出す。

2023シーズンこそ、2022年とは違う景色を見せてくれるはずだ

◤TEAM information◢
Team:SANJO BEATERS.EXE
Since:2019
Hometown:新潟県三条市
SNS:
(Twitter)https://twitter.com/sanjobeaters
(Instagram)https://www.instagram.com/sanjobeaters/
(公式サイト)https://sanjobeaters.com/

◤大会誘致に関するお問合せはこちら◢
premier@exebasketball.com

(Text by コバヤシ ワタル)